2022年度下半期のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」で脚本を務めた桑原亮子さんをご存じでしょうか。
桑原さんは脚本家としてだけでなく、短歌や童話、詩などの作家としても多くの作品を書いています。
しかし、彼女の作品は雑誌掲載が中心なのでなかなか読むことが難しいです。
なんとか頑張って色々探し回り、桑原亮子さんの雑誌掲載作を(私の知る限り)すべて読みました。
『春栗の自由帳』以上に桑原亮子さんの雑誌掲載作について詳しく書いているところはないと思っています。
他にもご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひお教えいただけると嬉しいです。
なお、短歌に関しては私の守備範囲外で掲載紙も同人誌など入手困難なものが多いため、割愛させていただきます。
桑原亮子作品の魅力
NHKの朝ドラ「舞いあがれ!」で驚くほど緻密で心の琴線に触れる脚本を書いた桑原亮子さん。
彼女の作品の魅力は「行間に込められた物語の奥深さ」と「登場人物全員への優しい視点」です。
その特徴はドラマ脚本だけでなく、短歌・童話・短編小説などの活字でも強く表れています。
「詩とメルヘン」2002年6月号 通巻372号 『六月のピアノ』
「詩とメルヘン」2002年6月号の「今月、最後まで候補に残った作品」として、桑原亮子(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子)さんの詩『六月のピアノ』が挙がっています。
桑原さんが『詩とメルヘン』に投稿した作品のうち、初めて候補として載ったものと思われます。
残念ながら不採用となったため、本文の掲載はありませんでした。
「詩とメルヘン」2002年8月号 通巻374号 『ティティヴィルスは夜に飛ぶ』
「詩とメルヘン」2002年8月号の「今月、最後まで候補に残った作品」として、桑原亮子(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子)さんのメルヘン(童話)『ティティヴィルスは夜に飛ぶ』が挙がっています。
残念ながら不採用となったため、本文の掲載はありませんでした。
2016年4月にNHK-FMで放送された桑原さん作のラジオドラマのタイトルが『ティティヴィルスの見えない蜂』なので、『ティティヴィルスは夜に飛ぶ』と何かの関係があると思われます。
「ティティヴィルス」とは「ティティヴィラス」とも呼ばれる、中世ヨーロッパで間違った言葉や悪い言葉を集めていた悪魔のことです。
「詩とメルヘン」2002年11月号 通巻377号 『こどもの記憶』
「詩とメルヘン」2002年11月号に桑原亮子(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子)さんの詩『こどもの記憶』が掲載されています。
同誌に初めて採用された桑原さんの投稿作品です。
挿画は岩崎千夏さんです。
天井の木目に「きりん」が見えなくなった時、子供はなにを憶えているのかという詩です。
こどもは忘れていくふりをして
引用:「詩とメルヘン」2002年11月号 鳥羽亮子『こどもの記憶』
ひとつひとつ そっと憶えている
(中略)
死なせたことり
ちいさないじわる
そっと憶えている
ところどころで漢字をひらいている(ひらがなで表記している)点に言葉選びの強い意志を感じます。
タイトルの「こども」の「記憶」ですでにそのチョイスが垣間見えます。
「詩とメルヘン」2003年2月号 通巻380号 『砂時計』
「詩とメルヘン」2003年2月号の「今月、最後まで候補に残った作品」として、桑原亮子さん(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子さん)の詩『砂時計』が挙がっています。
残念ながら不採用となったため、本文の掲載はありませんでした。
「詩とメルヘン」2003年3月号 通巻381号 『天使の抱く街』
「詩とメルヘン」2003年3月号の「今月、最後まで候補に残った作品」として、桑原亮子さん(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子さん)のメルヘン(童話)『天使の抱く街』が挙がっています。
残念ながら不採用となったため、本文の掲載はありませんでしたが、2か月連続で候補に残ったのは今回が初となります。
「詩とメルヘン」2003年4月号 通巻382号 『さようなら』
「詩とメルヘン」2003年4月号に桑原亮子さん(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子さん)の自由詩『さようなら』が掲載されています。
奇しくも「休刊のお知らせ」が掲載された、この号に載った自由詩のタイトルが『さようなら』というのも出来すぎですね。
詩の内容も「別れを認めたくない子供が絶対に『さようなら』と言おうとしないのに、無理やり手で『バイバイ』させられる」情景です。
こどもは
引用:「詩とメルヘン」2003年4月号 鳥羽亮子『さようなら』
けっしてさようならを言わない
母親に ちいさな手をつかまれ
その手を持ち上げられ
左右に不器用に動かされながら
(中略)
きゅっとくちびるを結んで
たぶん、桑原さんは休刊の事実を知らずにこの詩を書いたと想像しますが、そのことをを知った時はこの詩の子供以上の強い悲しみを感じたのではないでしょうか。
「さようなら」は言いたくなかったと思います。
「詩とメルヘン」2003年6・7月合併号 通巻384号 『アンティーク・ドール』
「詩とメルヘン」の最終号に桑原亮子(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子)さんの童話『アンティーク・ドール』が見開き4ページで掲載されています。
挿画は小山奈緒さんです。
神戸異人館通りのはずれにある小さな古着屋に置かれたアンティークドール(古いフランス人形)と汚れたテディベア(実は貴重な骨董品)のひねくれた可愛い友情の物語です。
テディベアは静かに目を閉じてアンティーク・ドールに
引用:「詩とメルヘン」2003年6・7月合併号 鳥羽亮子『アンティーク・ドール』
「さようなら」
と囁きました。そのときです。アンティーク・ドールが、ぱっと自分の帽子を取ると、それをテディベアの頭にかぶせたのです。
(中略)
「小さな子と眠るときは、その帽子を脱いでベッドに入るのよ。ドードーの羽根に、よだれなんかつけられちゃ困るんだから」
テディベアとアンティーク・ドールのディテールがかなり細かく描写されていて、たいへん絵画的な表現となっています。
高慢ちきで意地悪なアンティーク・ドールが最後に見せる、とびっきりの優しさが感動的です。
ドラマ「舞いあがれ!」の事務員山田さんがホワイトボードに「!」と書いた時のような、素敵なツンデレ感を思い出しました。
「詩とメルヘン」2003年8月号 特別号 通巻385号 『一瞬』
6・7月合併号で休刊となった「月刊 詩とメルヘン」の2003年8月号 特別号に桑原亮子さん(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子さん)の詩『一瞬』が掲載されています。
挿画はおおた慶文さんです。
この号は「詩とメルヘン」に特に縁のある作家を中心に作品が掲載されているのですが、その中に桑原さんが選ばれているという点に驚かされます。
彼女は読者投稿が初採用されてからまだ1年以内という短いキャリアなのに、この歴史ある雑誌に幕を下ろす大切な号にぜひ必要な作家という評価をされたのだと想像します。
桑原さんがその後に手がけた作品の数々を知っている我々としては納得の抜擢ですが、2003年の段階でこの決断に至った雑誌責任者、やなせたかし氏の慧眼がすごいです。
なつかしく見つけて
引用:「詩とメルヘン」2003年8月号 特別号 鳥羽亮子『一瞬』
なつかしく見つめても
二人 歩み寄ろうとするたび
人にぶつかり たちまち押し戻されるから
しかたなく
流れの両岸にたたずんで
曖昧に微笑み合った
この『一瞬』というごく短い詩は、おそらく別れた恋人同士と思われる二人が偶然再会します。
人混みが「七夕の天の川の様に」二人を阻んで近づくことができず、曖昧な笑みを交わすだけの一瞬を切り取ったものです。
少ない言葉で鮮明に絵が見え、心の動きやその変化も描かれます。
おおた慶文さんの挿画も詩に切ない味わいを与えています。
「道でばったり出会った二人のぎこちない視線のコミュニケーション」を描いた作品としては、矢野顕子さんの「みちでバッタリ」を連想しました。
「詩とファンタジー」2007年創刊号 『折合い』
「詩とファンタジー」2007年創刊号に桑原亮子さん(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子さん)の詩『折合い』が掲載されています。
絵は宇野亜喜良さんです。
「詩とメルヘン」休刊後、数年を経て「詩とファンタジー」として復活しました。
編集長はやなせたかしさんです。
この詩に描かれる「うっかり触れると死んでしまうグレーのうさぎ」といえば、ドラマ「舞いあがれ!」で久留美ちゃんが死なせてしまった「すみちゃん」を思い出します。
舞ちゃんが久留美ちゃんをなぐさめるために調べた情報は「何もしなくてもうさぎというのは死んでしまうことがある、もろい生き物である」ということでした。
『折合い』の中でもこのような知識を持つ語り手が、うさぎをどう扱うか思いあぐねている様子が描かれます。
どこかで聞いた気がする
引用:詩とファンタジー2007年創刊号 鳥羽亮子『折合い』
うさぎは抱き上げない方がいい、と
鳥や肉食獣に体を持ち上げられると
うさぎはショック死することがあるから、と
そうだ、 確かに聞いた
(中略)
ハッとして手を引っ込めた
私の前で
うさぎはまだ震えていた
「舞いあがれ!」のすみちゃんとは違い、このうさぎは主人公と長く暮らすことになります。
「詩とファンタジー」 2009年12月号 『ビューティフル・ドリーマー』
「詩とファンタジー」2009年12月号に桑原亮子(投稿時ペンネーム:鳥羽亮子)さんの詩『ビューティフル・ドリーマー』が掲載されています。
イラストは高田美苗さんです。
聴力を失った絶望を描いた詩です。
桑原さん自身が聴力を失って感じた絶望をビビットに表現しています。
発表の6年後、この作品の創作について桑原さん自身がコメントしています。
耳が聴こえないと、電気を消した時に物の気配がすべて消えます。
引用:詩とファンタジー2015年6月号 『一期一会 第4回』
ある真夜中、不意にとてつもなく悲しくなって、涙が出ました。
ぽろぽろ泣きながら「ビューティフル・ドリーマー」を一気に書き、またしばらく泣いて、眠りました。
私にとって詩は、人生で一瞬しか訪れない気持ちを写した写真です。「ビューティフル・ドリーマー」にはあの頃の悲しみが写っていて、読み返すと「呆然と部屋に座っていた自分」を思い出します。
「聴覚を失う」ということは「歌を失う」ということでもあると気づき、ハッとさせられます。
そして、最後に残った歌「ビューティフル・ドリーマー」をおぼつかない音程で歌う悲しみが心に刺さります。
ドラマ「舞いあがれ!」の中で秋月史子さんが「ええ短歌を作るのに必要なもの、それは深い孤独」と言っていました。
それは桑原亮子さん自身が強く実感したことなのかもしれません。
「詩とファンタジー」2010年No.12夏波号 『田舎の海をみせたい』
「詩とファンタジー」2010年No.12夏波号に2ページの見開きで、桑原亮子さん(掲載時のペンネームは鳥羽亮子さん)の詩『田舎の海をみせたい』が掲載されています。
葉祥明オフィシャルブログに掲載あり
イラストは葉祥明さんです。
夏の匂いのする素敵な詩ですが、「がまの穂」や「干してある魚」「ふくらむフグ」「ねぎの匂い」など、スタイリッシュになることを回避するワードが散りばめられているのが強い味わいとなっています。
短歌の形式にはなっていませんが、気持ちよく韻を踏んでいて歌詞のようにも感じられます。
後半に向かうに従って情景描写から心情描写へと軸足が移動していくのも心地よいです。
ワンピースの形に日焼けしながら待ってもいい
引用:「詩とファンタジー」2010年No.12夏波号 鳥羽亮子『田舎の海をみせたい』
ラストの切れ味が抜群です。
夏の海岸の映像が鮮明に見えるような素晴らしいフレーズです。
「詩とファンタジー」2010年No.13秋彩号 『黄花コスモス』
「詩とファンタジー」2010年No.13秋彩号に2ページの見開きで、桑原亮子さん(掲載時のペンネームは鳥羽亮子さん)の詩『黄花コスモス』が掲載されています。
イラストは味戸ケイコさんです。
飛行機雲が飛行機にしたがうように
引用:「詩とファンタジー」2010年No.13 鳥羽亮子『黄花コスモス』
私の視線もあなたについていってしまう
あなたの視線は迷いなく
私の視線をつれていった
午後の窓の外 揺れる黄花コスモスの群れへ
引用した三節めが特に素晴らしく、「詩とファンタジー」編集長のやなせたかし氏も絶賛していました。
飛行機雲と飛行機のメタファーは、後年の「舞い上がれ!」につながっていくものだと思います。
「詩とファンタジー」に鳥羽亮子さんの作品が掲載されたのはこれが最後となります。
この時期にドラマ脚本の執筆を始めたので、軸足が移動したのかと想像します。
「母の友」 2010年11月号 『さむかったお人形』
「母の友」 2010年11月号に桑原亮子さんの童話『さむかったお人形」が見開き2ページで掲載されています。
挿画はフジモトマサルさんです。
この雑誌ではペンネームが「鳥羽亮子」から「桑原亮子」になっています。
「鳥羽亮子」は「詩とメルヘン」と「詩とファンタジー」のみで用いるペンネームかと想像します。
おかあさんのうっかりミスで冷蔵庫に入れられてしまったお人形のメイちゃん(代わりにおもちゃ箱に入れられてしまったのは庭でとれたトマト)。
寒い冷蔵庫の中で凍えるメイちゃんを助けるべく、食材たちが自分たちにできる精一杯のことをするというお話です。
「あのぅ...よろしければ、セーターをお貸しいたしましょう」
引用:「母の友」 2010年11月号 桑原亮子『さむかったお人形』
と、やさしい声が聞こえました。メイちゃんが振り返ると、リンゴがいそいそと白いあみを脱いでいるところでした。リンゴは、メイちゃんに白いあみをかぶせました。
「どうですか、少しは温かいですか」
可愛くて、暖かくて、愛おしくてたまりません。
フジモトマサルさんのポップなイラストも愛らしさを倍増させています。
桑原亮子さんがインタビューの中で『さむかったお人形』に言及
女性誌『LEE』の2023年8・9月合併号に桑原亮子さんのインタビューが掲載されています。
その中で『さむかったお人形』について言及されていました。
文章を書くこと自体は、10代後半から興味があり、大学時代には童話を書いていました。
童話では例えば、疲れている母親が、間違えて人形を冷蔵庫に入れてしまったことから起こる騒動や、孤独な海猫と山猫が出会う話など、ファンタジックな作品が多かったかもしれません。
童話は今でも書いています。
引用元:2023年LEE8.9月合併号
「疲れている母親が、間違えて人形を冷蔵庫に入れてしまったことから起こる騒動」というのは『さむかったお人形』のことで間違いないでしょう。
「母の友」 2011年11月号 『海猫の手紙』
「母の友」 2011年11月号に桑原亮子さんの童話『海猫の手紙』が見開き2ページで掲載されています。
挿画はフジモトマサルさんです。
山猫さんから「海の猫と、山の猫とでお友だちになりましょう」とお手紙を受け取った海猫さん。
しかし、山猫さんは猫、海猫さんは鳥なので困ってしまいます。
『山猫さんへ。ぼくは海猫です。海の猫という名前だけれど、にせものの猫です。ごめんなさい。海猫より』
引用:「母の友」 2011年11月号 桑原亮子『海猫の手紙』
書き終えて、海猫は、急にさびしくなりました。
(中略)
『山猫さんへ。ぼくは海猫です。海の猫という名前なので、本物の猫です。お友だちになりましょう。海猫より』
これなら、山猫はまた手紙をくれるでしょう
山猫さんへの手紙に本当のことを書くか、嘘をつくか散々迷って、遂には泣き出しちゃう海猫さん。
しかし、そこは稀代のストーリーテラー桑原亮子さん。
ぐっとくるラストを用意してくれました。
今回のお話も激烈に可愛いです。
「母の友」に掲載された桑原さんの童話の中で1番好きです。
桑原亮子さんがインタビューの中で『海猫の手紙』に言及
前述の女性誌『LEE』の2023年8・9月合併号桑原亮子さんのインタビューの中で『海猫の手紙』についても言及されています。
文章を書くこと自体は、10代後半から興味があり、大学時代には童話を書いていました。
童話では例えば、疲れている母親が、間違えて人形を冷蔵庫に入れてしまったことから起こる騒動や、孤独な海猫と山猫が出会う話など、ファンタジックな作品が多かったかもしれません。
童話は今でも書いています。
引用元:2023年LEE8.9月合併号
「孤独な海猫と山猫が出会うファンタジックな作品」というのは『海猫の手紙』のことです。
私もとても好きなこの作品を桑原さんも気に入っていたのでしょうか。
12年経った後のインタビューで言及するということは、作者にとってもやはり思い入れの深い作品なのだと思います。
「飛ぶ教室」第39号 2014年秋 『いつか帰ってくるよ』
「飛ぶ教室」第39号(2014年秋)第28回作品募集の佳作受賞作品として、桑原亮子さんの『いつか帰ってくるよ』が掲載されています。
4ページの短編小説です。
「いつか帰ってくるよ」と言って家を出たうさぎと、12歳の私と、「ありがと」しか言えない3歳の弟の可愛い可愛い物語。
饒舌なうさぎの独特なボキャブラリーが素晴らしく、特に犬をディスる時の「二重犬格」が好きです。
「あいつはとんでもないですよ」
引用:「飛ぶ教室」第39号 2014年秋 桑原亮子『いつか帰ってるくるよ』
うさぎはそう力説しました。
「相手が人や牛だと愛想がいいけれど、うさぎを前にしたとたん、態度がひょう変します。いわゆる二重犬格です。」
うさぎと主人公の心の交流が温かくドラマチックに描かれています。
特に終盤、弟の口を借りて語られるうさぎからのメッセージには泣かされました。
桑原さん独特の詩的なディテール描写も美しいです。
私と弟のほうへ押しやられた干し人参を、私たちは黙って食べました。小声で歌う子守唄みたいな、甘い味がしました。
引用:「飛ぶ教室」第39号 2014年秋 桑原亮子『いつか帰ってるくるよ』
干し人参をこんなにチャーミングな形容詞で表現した文章は初めて読みました。
うさぎといえば、ドラマ「舞いあがれ!」で久留美ちゃんが死なせてしまった「うさぎのすみちゃん」を思い出します。
「いつか帰ってるくるよ」のうさぎもすみっこで震えていたり、主人公と1対1の深い関係で結ばれていたりと、ドラマのアイデアの元になったのではないかと想像しています。
雑誌に掲載された桑原さんの小説・童話・詩などをいろいろ読みましたが、個人的にはこの「いつか帰ってくるよ」が最も好きです。
「月刊シナリオ教室」2015年5月号『夏の午後、湾は光り、』シナリオ
「月刊シナリオ教室」2015年5月号にラジオドラマ『夏の午後、湾は光り、』のシナリオが掲載されています。
『夏の午後、湾は光り』は「第35回BKラジオドラマ脚本賞」で最優秀賞を受賞した桑原亮子さんのオリジナルドラマ脚本です。
このラジオドラマに関しては「「舞いあがれ!」だけじゃない!桑原亮子さんとは?脚本ドラマ聴いた・観た感想!代表作はなに?」という記事で詳しく書いています。
ちなみに、「月刊シナリオ教室」は桑原亮子さんが通っていたシナリオ学校「シナリオセンター」の会員向けの会報で、一般の雑誌のように購入できません。
放送されたラジオドラマとは若干せりふが異なっており、先生の妻、友里の意地悪さがよりくっきりと、しかしユーモラスに描かれています。
友里と多賀子の掛け合いが女性漫才コンビの台本のようでめちゃくちゃ面白いです。
このようなの桑原さんの会話劇の面白さは『舞いあがれ!』でもお好み焼き屋を営む梅津夫妻のやり取りで発揮されていましたね。
「母の友」 2017年11月号 『ゆきのひはおしずかに』
「母の友」 2017年11月号に桑原亮子さんの童話『ゆきのひはおしずかに』が見開き2ページで掲載されています。
挿画は平岡瞳さんです。
優しいきつねと大木が「うろのなかで眠っているこぐま」を気づかって相談する物語です。
「しいっ。おしずかに」
引用:「母の友」 2017年11月号 桑原亮子『ゆきのひはおしずかに』
と、おおきな木が、ちいさなこえでこたえます。
きつねは、そのへんじをきいて、すこし、はらをたてました。
「しいっ、とは、なんです。ぼくは、あなたをしんぱいしてあげたのに」
植物や動物の目線で語られる物語といえば、ドラマ『舞いあがれ!』の梅津貴司くんの短歌を思い出します。
こういった静かで優しいストーリーは桑原さんの真骨頂だと思います。
最後にこぐまのお母さんが急ぎ足で戻ってくる描写もふんわりと優しいです。
「ドラマ」2018年1月号『冬の曳航』シナリオ
2017年1月、NHK-FMでラジオドラマ『冬の曳航』が放送されました。
ドラマのシナリオが月刊「ドラマ」2018年1月号に全文掲載されています。
中世に那智勝浦に存在した「補陀落渡海」という捨身行をモチーフとしたオリジナルラジオドラマです。
生きたまま木の箱に閉じ込められて海へ流されるという、想像を絶する厳しい修行を扱った物語ですが、そこは桑原亮子さんのペンですのでふんわりと優しい手触りとなっています。
補陀落渡海に出る浄定と、それをサポートする捨三の心の交流は「舞いあがれ!」における八木さんと貴司くんのようなものとして描かれています。
こんなに愛らしい時代劇脚本は初めて読みました。
大好きな作品です。
「母の友」 2018年11月号 『くもと帰る』
「母の友」 2018年11月号に桑原亮子さんの童話『くもと帰る』が見開き2ページで掲載されています。
挿画は井上文香さんです。
「母の友」に掲載された桑原さんの作品としては最新のものとなります。
これまでの童話よりもさらに低年齢の子供たちに向けて、すべてひらがなで書かれています。
みずうみから、かわへ、すいすいすい。くもが、ぼくについてくる。くもが、もく、とおおきくなった。
引用:「母の友」 2018年11月号 桑原亮子『くもと帰る』
すいすい、とぼくがおよぐ。
もくもく、とくもがおおきくなる。
すいすいすい
もくもくもく
すいすいすいすい
もくもくもくもく
すいすいすいすいすい
もくもくもくもくもく
音読するとその魅力がよくわかる童話です。
子供の心をしっかりとらえる「オノマトペ」が多用されています。
「子どもに聞かせる一日一話」という特集テーマにこれほどマッチした作品は初めてです。
ぜひ読み聞かせに使ってみたいです。
「ドラマ」 2020年11月号『心の傷を癒すということ』第1回・第2回シナリオ
2020年にNHKで土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』が放送されました。
第1回・第2回のシナリオが月刊「ドラマ」2020年11月号に掲載されています。
神戸の精神科医・安克昌氏の著作「心の傷を癒すということ」を元に、フィクションとして再構成されたドラマです。
安医師は自らも被災しながら、阪神淡路大震災で心の傷を負った人々のケアに奔走しました。
安医師は2000年に病により亡くなってしまうのですが、彼が短く・太く駆け抜けた人生を桑原亮子さんが濃密なタッチで描いています。
特に第1回のエピソード、安氏と後に奥様となる終子さんの出会いから関係を深めていく描写の温かさ、豊かさが素晴らしいです。
ドラマで見ても感動しましたが、シナリオに書き込まれた心の微細な動きはさらに絶品です。
ぜひシナリオに触れてみてほしいです。
『トビウオが飛ぶとき』「舞いあがれ!」アンソロジー
2023年5月29日に、NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」のアンソロジー『トビウオが飛ぶとき』が発売されました。
この本が桑原亮子さん初の単行本となります。
「舞いあがれ!」に登場した短歌・詩を集めたアンソロジーです。
それぞれの短歌や詩はドラマの登場人物、梅津貴司、秋月史子、リュー北條、八木巌、全国の子どもたちが作ったということになっていますが、もちろん全て桑原亮子さんの作です。
とても一人の作家が書き分けたとは信じられないほど、各々のキャラクターらしさの出た短歌・詩ばかりなので驚きます。
しかも梅津貴司など、物語が進むに従ってその作風がどんどん洗練されていく作家の作品はちゃんとその段階ごとにリアリティのある感じで変化をつけて書き分けられています。
しかし、雑誌「短歌」2023年8月号の『トビウオが飛ぶとき』出版記念インタビューで桑原亮子さんは意外な発言をしています。
桑原:脚本家は複数の登場人物の気持ちを描き分けるのが仕事ですので、今回のアンソロジーもそれほど特別なことをしているつもりはありませんでした。ただ「アンソロジーなのに著者が一人」という不思議な本になったため、出版されるまで、受け入れていただけるのかどうか不安が大きかったです。
引用元:雑誌「短歌」2023年8月号
脚本家としては「キャラクターごとに作風を変えて短歌や詩を書く」ことはそれほど特別なことではないというのが驚きです。
桑原さんのドラマでは主人公以外の登場人物も一人一人がきちんと血の通った人間として描かれているので、確かに特別なことではないのかもしれません。
ちなみに、雑誌「短歌」2023年8月号に掲載された桑原亮子さんのインタビューは、インタビュアーの理解度が異常に高いため、他のインタビューとは全く異なる深い掘り下げがなされています。
まるで吉田豪さんのような読み応えのあるインタビュー記事となっているので、インタビュアーが無記名であることが不自然に感じられるほどです。
「飛ぶ教室」第74号 2023年夏 『胸の小鳥』
「飛ぶ教室」第74号(2023年夏)特集「10編の超短編」の一作として、桑原亮子さんの『胸の小鳥』が掲載されています。
桑原亮子さんの作品が「飛ぶ教室」に掲載されるのは2014年の第39号以来、9年ぶりとなります。
前回の『いつか帰ってくるよ』は作品募集の佳作受賞作品としてでしたが、今回の『胸の小鳥』は職業作家として掲載されています。
「飛ぶ教室」のバックナンバーはすべて確認しましたが、『いつか帰ってくるよ』と『胸の小鳥』以外に桑原亮子さんの作品は掲載されたことがありません。
2018年の『くもと帰る』以来、実に5年ぶりの短編作品となりますが、ドラマの脚本家という大きな仕事を経ても全く変わらない桑原亮子さんだけの優しい物語世界が『胸の小鳥』にはしっかり存在していて嬉しくなります。
「いや、初めて喋ったのは三か月ぐらい前かな。バイトに行こうとしたら、『そのコートのポケットに入れてちょうだい。お留守番はもう飽きた』って言ったんです。この子、僕の歌を聴いているうちに言葉を覚えたって言うんですけど」
引用:「飛ぶ教室」第74号 2023年夏 桑原亮子『胸の小鳥』
「鳥って人の言葉覚えるよね」とは思いますが、ここでは会話をしていてびっくりします。
しかもこの小鳥が絶妙にシニカルで、まさに桑原亮子さんの作品にいつも登場するタイプのめちゃくちゃチャーミングなキャラクターで描かれています。
『舞いあがれ!』の事務員、山田さんが小鳥となって転生したような最高にツンデレな人物(?)造形です。
これまでは『いつか帰ってくるよ』が桑原亮子さんの最高傑作と思っていましたが、それを越える作品が出てきたなと『胸の小鳥』を読んで感じました。
とにかく可愛くて愛おしい、桑原亮子さん2023年の大傑作です!
まとめ
今回は脚本家桑原亮子さんの雑誌掲載作品をまとめて紹介しました。
どの作品も「舞いあがれ!」や「心の傷を癒すということ」に通じる魅力を感じる素晴らしいものばかりでした。
もし機会がありましたら、ぜひ手に取ってお読みください。
桑原亮子さんが脚本を書いたドラマ4作品はNHKオンデマンドで視聴できます。
NHKオンデマンド見れる作品(2024年1月20日時点)
- 舞いあがれ!
- 心の傷を癒すということ
- 彼女が成仏できない理由
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